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2009年2月15日 / misotukuri

「アフガンの男」-人知れず死ぬ美学

 「アフガンの男」(フレデリック・フォーサイス著)読了した。
 この本、あまり評判が良くないようだが、それも無理ないと思う。
 何しろ「神の拳」で活躍し、今回も主役で復帰したSASスーパー・ヒーローのマイク・マーティン大佐が、最後には死んじゃうんだからね。
 それも、誰も知らないところで、誰も知らない死に方で、誰も知らない名前で。
 彼は大変な苦労をしてアルカイダに潜入して、アル・イスラという秘密作戦に参加するが、最後の最後まで、自分がどこで何をしようとしているのか分からない。
 恐らく、9.11同時多発テロを上回る、何らかの自爆攻撃なのだろうと思うが、そのターゲットも、方法も良く分からない。
 ただ、ことあるごとに、アッラーのために命を捧げる決心はついたと言わされ、後は命令通り、選び抜かれた他の仲間と動くだけ。
 実際、自爆テロの実行犯なんて、この通りなのだろう。
 仮に、未然に捕まえたとしても、全く何も知らないのだろう。
 とにかく、この小説の主人公は、匿名のまま死ぬ。
 そして、彼が成し遂げた功績は、狙われたターゲットに何も起きなかったことだけ。
 一緒に死んだテロリスト以外に、いや、彼らも結果を見届けるわけにはいかなかったから、何が原因でテロが失敗したのか、敵も味方も誰一人知ることはなかったのだ。
 この徹底した無名性の内にこの世から消えて行く者達の死ぬ美学のようなものを感じる。
 前回、このマイク・マーティン大佐は、何のために戦うのかよく分からないと述べた。
 金、国家、国民、善良なる人々、家族、恋人、・・・そして、SAS、仲間達・・・・
 どのためでもないように思う。
 強いて言えば、「義務感」故にではなかろうか?
 彼は、自分の能力を最大限に発揮できるのは、「義務」に生きることしかないと解っていた。
 「義務」に生きてきた人間は、「義務」に死に行くのだ。
 これは、恐らく、今の日本人には、とうてい理解できない理由だろう。
 だから、評判が良くないのだ。
 マイク・マーティン大佐になりすまされた伝説の「アフガンの男」イズマート・ハーンは、一方、グアンタナモから秘密裏に隔離移送され、ロッキー山中のCIA施設に幽閉される。
 ところが、ある日墜落するF-15のエンジンがその施設を直撃するというほとんどあり得ない災難というか、彼にとっては僥倖に見舞われ、何とかそこを脱出する。
 ロッキー山岳での雪中逃避行と追跡劇は、ドラマチックでいいのだが、もっと楽しみたかった。
 伝説の「アフガンの男」イズマート・ハーンは、米軍山岳特殊部隊の追跡を振り切りカナダ側に逃げるが、電話ボックスで国際電話をかけようとしているところを狙撃兵に長距離狙撃されて、あっけなく殺されてしまう。
 私は、この運命の二人が最後に絡み合って、対決するのではないかと、サスペンスを感じていたのだが、残念だ。
 もっとも、そうした俗っぽいストーリーを展開させるにはあまりにも残りのページ数が少ないことから、恐らくそうはならないだろうと思いながら読み進んだ。
 そして、思った通り、結果はそのまま二人が交差することはなかったのだが、そのことに不満を覚えながらも、これでいいのだ、と思った。
 闇に生きる者は人知れず死ぬことこそふさわしいとしたものなのだ。
 無名性の美学だな。
 こうして、 伝説の「アフガンの男」は、アル・イスラというテロ攻撃に出かけたまま消息を絶ったということで、ほとんど知る人もなく歴史の闇に消えて行くのだった。
 伝説の「アフガンの男」イズマート・ハーンとそれになりすましたマイク・マーティンSAS大佐共々に。
<追伸2012.8.31>
 先日、映画「エッセンシャル・キリング(Essential Killing)」(10年、ポーランド、ノルウェー、アイルランド、ハンガリー、イエジー・スコリモフスキ監督、ヴィンセント・ギャロ他、第67回ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞)を見た。
 これはまさにこの小説に出てくる「伝説の「『アフガンの男』イズマート・ハーン」を主役にしたスピンオフ映画みたいで、全編主役は一言も喋らず、ただ逃げて逃げまくるというアイデアものの傑作。
 小説とは少し設定が違うが、エッセンスは同じだ。
 必見と思うので、小説と併せてオススメする。

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