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2012年8月31日 / misotukuri

「市民ヴィンス」の人間再生プログラム度

MWA賞受賞作品読破シリーズもこれで6冊目かな?

先日、「市民ヴィンス」(ジェス・ウォルター著)読了した。

これは歴代のMWA賞受賞作品の中でも上位10傑に入る傑作だと思う。

並みいる大御所の傑作の数々を押さえて大番狂わせで2006年アメリカ探偵小説作家クラブ賞最優秀長編賞に輝いたのもうなずける見事な出来栄え。

ジェス・ウォルターという作家、他にあまりミステリは書いていないようだし、これで一世一代のスウィングをやってのけたというわけかな?

主人公ヴィンスは、ワシントン州スポーケンという田舎町のしがないドーナツ屋。

その実、ヤクの売人、カード詐欺師、ギャンブルで生計を立てている小悪党。

彼は故郷のNYで、ある事件の証人として証言するかわりに証人保護プログラムを受けることになった。

泣く泣く恋人とも別れ、新しい名前と新しい仕事をもらって、誰も知らない見知らぬ町で、新しい人生を送っていた。

だが、4年経ったある日、被害妄想かもしれないが、いつもと違う何かが起き始めていた・・・・

証人保護プログラムを扱った映画やTVドラマは幾つか見たことがあったが、小説は初めてだ。

数少ない映画と小説とTVドラマに共通しているのは、新しい人生に適応していくことの難しさだな。

この小説の主人公の小悪党ヴィンスもまたそれに悩む。

彼は、職業訓練を受けて、ドーナツ屋をやっていたが、4年経つうちにいつの間にかそれだけでは飽きたらず、昔の仕事であるカード詐欺に再び手を染め、ギャンブルをし、ヤクの売人も始めていた。

それが危険なことだとわかっていても、どうしても、昔の自分に回帰してしまうのだ。

なかなか生まれ変われないんだな。

この主人公のカード詐欺の手口、日本では無理と思ったが、以前、ある通販がCITIバンクのクレジットカードを送りつけてきた時のことを思い出した。

結局、運転免許証か保険証の写しを送らないと有効にならないとか言うので、馬鹿らしいので無視していたら、しつこく手紙が来たが、皆当然、無視してやった。

郵便でそんなものを送るのは危険だと思ったし、この小説を読むと、やっぱり、単なる被害妄想ではなかったとわかった。

日本でもやろうと思えばできないことはない。

ま、それはともかく、この小説は、単なる犯罪小説ではなく、たまたま証人保護プログラムでまっさらな人生を手に入れた小悪党が、まっとうな人間として再生するチャンスを得たことに気づき、何とかしてその一歩を踏み出そうとするお話でもある。

生い立ちや環境のせいにはしたくないが、人間スタート地点が違えば到達できる地点も大きく違うもの。

だが、これは、どんなつまらない小悪党でも、何かがきっかけで人間は変わることが出来るのだと訴えかけてくる小説だ。

信じてもいいのではないか?

証人保護プログラムは、生まれ変わったら何になりたい?を死なずにさせてくれるありがたい制度なのだ。

J・フランケンハイマーの映画に「セコンド」(66年米、ロック・ハドソン他)というのがあった。

あれは、証人保護プログラムじゃなくて、第二の人生を提供する商売の話だったが。

そんなうまい話はどこにもないと知るべきなのだが・・・・

脇役がまたどれもこれも実におもしろい。

不倫がバレてオロオロしている新進政治家、不動産業の勉強をしている娼婦、後の名探偵を予感させる超堅物の新米刑事、いかにも殺し屋という凶悪な男、組織や指導者はどうあるべきかを常に考えているマフィアのボスとその手下で知的で穏やかだがとてつもなく危険な男、NYの貧しい汚職警官・・・

特に、主人公を追いかけるアラン・デュプリー新米刑事には、参った。

このキャラクター、いっぺんにファンになってしまったよ。

作者のジェス・ウォルターには、ぜひ彼を主人公にしてスポーケン舞台の探偵小説を書いて欲しいな。

では。

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