Skip to content
2014年2月22日 / misotukuri

「去年はいい年になるだろう」のイマイチ度

「去年はいい年になるだろう」(山本弘著)読了した。

これまでに読んだ彼の作品では一番面白かった。

久しぶりにタイム・トラベルについての思考実験を楽しめた。

もっとも、SFファンとしては、考え方があまりにも常識的なので、イマイチだったかな?

この小説は、いわゆるパラレル・ワールド説に基づいている。

普通、過去を変えたら現在も変わると思うだろうが、そうではない。

タイム・パラドクスの話をすると長くなるので、結論だけ言うと、パラレル・ワールド説とは、過去を改変するたびにもう一つパラレル・ワールドが生じるだけで、本来の歴史の現在は変わることなく続いていく、というもの。

一応、「親殺しのパラドクス」を解消する説明で、SFファンの常識的考え。

だが、この場合、必ず、「過去を変えてもこの現在が変わらないのなら、過去を改変することにどんな意味があるのか?」という問いに答えなければならない。

何故なら、いくら過去を変えてもこの現在が変わらないのなら、過去改変など全くの無意味だから。

だがそれは、心優しい善意の人に向かって、「そんなことは無駄だからよせ」と説得できる答えでなければなければならない。

特に9.11同時多発テロのような悲劇で家族や恋人や友人を失った人たちに、冷たく言うのは難しい。

この小説は、ロボットでなければタイム・トラベルが出来ない理由とか、アシモフのロボット三原則を本能として組み込まれたロボット故の過去改変の動機が語られる。

結局、主人公である2001年の作家山本弘は、未来から来たロボット達による過去改変作業を完全には止められない。

これはやはり、「テロの原因」というのが何かということについて、心の中に悪という闇を抱えていない善意の人には、今ひとつよくわからないからだろう。

「暴力による報復がまた新たなテロを生む」とかよく言われるが、この小説でも善意の行為でも憎しみは収まらず、逆に、一層ひどいテロを生む。

何故そうなるのか、この小説にはその答えはない。

書けば、偏見や差別に与することになりそうだから、やめたのだろう。

しかし、その答えも間違っている。

だが、それよりも、「過去改変」についてだ。

もう一つ別の考え方もある。

それは、「過去を改変したら現在も変わるが、現在の住人にはその変化に気がつかない」というもので、ウイリアム・テンが「ブルックリン計画」で述べた説。

「過去を変えただって?昔からこうだったじゃないか!」というわけだ。

パラレル・ワールド説でも同じだが、これは観測不能をもろに打ち出している。

この観測不能問題を如何にクリアするかで、一つSFが書けるだろう。

ただ、「親殺しのパラドクス」は解消できず、時間のループに囚われる人間も生まれてくる。

だが、この「ブルックリン計画」説なら、歴史はあくまで一つであり、パラレル・ワールドはないと言える。

そして、この宇宙の他にもしパラレル・ワールドがあるとしてもそれは、物理法則からして異なったビッグ・バン小宇宙のようなものだろう。

山本弘の次のタイムトラベル物では、こちらの「ブルックリン計画」説で思考実験をして欲しい。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。