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2015年11月5日 / misotukuri

「泰平ヨンの未来学会議」を読む(2)-何もかも想像以上だ度

 「泰平ヨンの未来学会議」ようやく読了した。
 この本に対する私の評価は基本的には前回と変わらないが、レムの文明批評としてのLSDカルチャー批判は想像以上だった。
 ここまで来ると、もはや黙示録という感じだね。
 この小説は、案の定、私の予想どおりの終わり方をしたのだが、それとて陳腐でも何でもないささいなことに思える。
 精神医科学は、現代では薬物療法の発達により、フロイトやユングなどの精神分析はせいぜい文学や人生相談コラムのネタでしかなくなっている。
 そして、思いの外、レムが予見した精神「化学」文明の病巣は、2015年の現在、深々と進行しているように思える。
 作品が発表されたのは1971年で、当時はLSDカルチャー全盛期だったものだから、この作品もLSDカルチャー批判なわけで、決して2015年現在の若い読者が考えるようなものではないと思うのだが、それにしても予見的ではあったね。
 この作品は、ジョージ・オーウェルの「1984年」とか、オルダス・ハックスリィの「すばらしい新世界」などと十分比肩しうる共産圏側からの資本主義的大衆文化批判だ。
 ようするに、一言で言うと、大した作品だ。
 1970年代のLSDなどのドラッグを現在のインターネットなどに置き換えられるわけだ。
 ようするにどちらもリアル(現実存在)ではないものに耽溺する大衆文化であり、それを様々な理由からサポートする文明という点で共通している。
 死亡した泰平ヨンが冷凍保存されて蘇生させられた未来は2096年で、そこでは地球上の人口が1000億人近くになっているという設定だが、現在(2015年)の地球上の人口が約73億人強で、100億人突破を目前に控えている。
 おそらく10年以内には100億人まで行くのではないか?
 食糧問題の有識者は200億人くらいまでなら食料危機で戦争になることはないと言っている。
 だからというわけではないだろうが、中国は一人っ子政策をこの度やめることにした。
 中国は、人口200億人時代を見据えて、世界で覇権を競うには現在の倍の30億人は必要と考えたのだろう。
 環境問題は煎じ詰めれば人口問題。
 21世紀初頭の泰平ヨンが出席した未来会議も、260億人がひしめく地球上の人口問題がテーマ。
 この点、レムの予見はまさに的中している。
 私も環境問題の解決は人口問題の解決だと思い、人減らしの戦争奨励とか宇宙植民や人間サイズの小型化など、いくつか案を考えたが、レムの考えた解決法は思いつかなかった。
 これは「マトリックス」の世界以上に恐いね。
 レムの想像力はあんなもの遙かに凌駕している。
 ただ2096年のアメリカの年間平均気温が4℃で、まもなく氷河期が来るのに大衆は逆のことを信じ込まされているというのは、1971年当時の気象学の通説を反映しているためなのかどうか、にわかには判じがたい。
 なぜなら、他のことでレムの予見の正確さを認める一方、このことについては否定する態度を取るのは、あまりにもご都合主義的で矛盾していて気が引けるからだ。
 しかし、この小説、前半はノリながら面白く読めたが、後半はシュールなんてものではない。
 尻がむずかゆくなること請け合いだ。
 目の前の現実が、本当に現実かどうか、どうやって確かめればいいのだろうと思う。
 外側に開くはずのドアを急に内側に開いてみたりすると、あるいはわかるかもしれない。
 では。

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