Skip to content
2016年5月25日 / misotukuri

小説「ミレニアム4-蜘蛛の巣を払う女」読了

 小説「ミレニアム4-蜘蛛の巣を払う女」(ダヴィッド・ラーゲルクランツ著)本日読了した。
 実は、身内に不幸があって、こんなこと書いている場合じゃないのだが、まだ印象が残っている内に書いておこうと思う。
 「ミレニアム」シリーズは、スティーグ・ラーソンが、1から3まで書いて世界的に大ヒットしたミステリだが、本人はその成功を見ることなく、心臓疾患でこの世を去った。
 その時、書きかけの4があるということは、パートナーのエヴァ・ガブリエルソンの回顧録「ミレニアムと私」の中で触れられていた。
 それも途中まで読んだところによると、スウェーデンでもいわゆる内縁関係にあったパートナーの法的地位というのは低いようで、ラーソンの遺産は血縁以外何の接点もない疎遠な親戚が相続し、彼女が持っている未完原稿の出版を巡って訴訟しているようだった。
 この「ミレニアム4」は、もちろんそのラーソンの未完原稿を完成させた物ではない。
 ダヴィッド・ラーゲルクランツという作家が「ミレニアム」シリーズの主要登場人物をそのままに生かして全く別のストーリーを作りあげた作品だ。
 こういうことは、文学の世界では結構あることで、有名な所では、「風と共に去りぬ」
(マーガレット・ミッチェル)の続編、「プライドと偏見」(ジェーン・オースティン)の続編など、多々ある。
 さすがに「カラマーゾフの兄弟」(フュードル・ミハイロヴィッチ・ドストエフスキー)の続編を本気で書いてやろうという恥知らずは知らないが、あるかもしれんな。
 アリョーシャみたいに祝福のキスして差し上げようか。
 ついでに、レフ・ニコラエーヴィッチ・トルストイの「戦争と平和」の続編も無理だろう。
 ピエールとデカブリストの乱がどうなるのか、ナターシャはダイエットはしないのか、面白いと思うが、巻末の論文が絶対書けないと思う。
 ミステリの世界でも、「シャーロック・ホームズ」物の続編やスピンオフ(派生作品)がよく知られているところだ。
 映画「シャーロック・ホームズの冒険(The Private Life of Sherlock Holmes)」(1970年ビリー・ワイルダー監督)は、大傑作だった。
 別の作家によって原作者の死後見つかった未完の原稿を仕上げるというのも最近では、マイクル・クライトンのPCにあった原稿を元にリチャード・プレストンが後半を仕上げたSF「マイクロワールド」が記憶に新しい。
 こういうことを踏まえて、ラーソンの「ミレニアム」とはあくまで別物だということで、この「ミレニアム4」を評価したい。
 作品そのものは、オリジナル「ミレニアム」の1~3までよりよく出来ていると思う。
 特に「ミレニアム」の1など、後半に差し掛かるまで、いったい何の話なんだろうと、ページをめくるのが苦痛だったし、取り立ててトリックとかどんでん返しとかあるわけでもなく、怪しい人物がやっぱり犯人だったという国際的に大ヒットしたミステリとは思えない話だった。
 ただただ、リスベット・サランデルのキャラクターが素晴らしく魅力的で、続編を是非読みたいという気にはさせられた。
 そして、「ミレニアム」シリーズを2,3と読み進む内に、スウェーデンの社会事情みたいなものが次第に見えてきた。
 スウェーデンと言えば、私にとってはイングマル・ベルイマンの映画だが、これまで私は何故彼が神の不在をテーマにするのかよくわからなかった。
 てっきり、インテリにありがちな個人的なものだろうと思っていた。
 しかし、スウェーデンもまた多くのヨーロッパ諸国と同じく、国王がいて貴族がいてという明らかに階級社会なのだ。
 だから、国教会なのか!と思う。
 そういう階級社会で国家が教会を運営管理しているところで、人権尊重?ハア?
 エッ、だって、そんな国家と宗教とが一体化した、しかも階級社会で、人権、中でも平等原理って相容れることなのか?
 いや、だからこそ、逆に階級社会の底辺から要求されるものとして、人権が唱われるのだ。
 ベルイマンが理不尽が横行する現実に神の不在を見て悩んだのも無理はないと思う。
 ここで、オリジナル「ミレニアム」のラーソンが貧農庶民の出のトロッキストで、「ミレニアム4」のダヴィッド・ラーゲルクランツが上流階級の出であるという違いが気になってきた。
 ラーゲルクランツは、この小説に出てくるNSA(アメリカ国家安全保障局)のセキュリティ最高責任者のエド・ザ・ネットのやったゲーム理論の「ダメージ・コントロール」戦略みたいに、ラーソンがばらまいた「ミレニアム」という毒をこれ以上被害が広がらないようにしているように思われる。
 そういう偏見でこの小説を見ると、リスベットやミカエルを突き動かす情念がちょっとアッサリしているような気がする。
 如何に小説として面白いストーリーができても、オリジナルとは決定的に欠けているものがあるのではないか?
 「ミレニアム」シリーズは10まで続きそうだが、シリーズを通じてはっきりしているのは、復讐がテーマだということ。
 で、今回は、リスベットの謎の妹カミラが姉に復讐しようとして中途半端に失敗したから、次回は、順序としてはリスベットが妹を叩きのめそうとする番だろう。
 だんだん通俗に堕ちていく感がしないでもないが、ラーソンは死んじゃったし、しかたがないね。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。