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2016年6月2日 / misotukuri

映画「パブリック・エネミーズ」の狼と猟犬度

映画「パブリック・エネミーズ」(09年、米、マイケル・マン監督、ジョニー・デップ、マリオン・コティヤール、クリスチャン・ベール他)を見た。
禁酒法時代に実在したギャング・スター、ジョン・デリンジャーの半生を描いた作品だ。
この映画も映画「俺たちに明日はない」(67年、アーサー・ペン監督)と同じく義賊気取りの銀行強盗を主役としたもので、結構、ヒットしたからご覧になった方も多いだろう。
あらすじは省略するとして、この映画の陰の主役はデリンジャーを追うメルヴィン・パーヴィス捜査官だろう。
彼は優秀な捜査官だが、決してサディストではない。
しかし、司法省捜査局長ジョン・エドガー・フーパー(後の悪名高きFBI初代長官)の猟犬となって、今で言う司法手続きなど完全に無視したような強引な捜査を続け、ついには奸計を用いてデリンジャーを現場処刑する。
しかし、映画はテロップだけで省略されているが、その後の彼の人生、どうもうまくいかなかったようで、1960年に拳銃自殺してしまう。
はっきり言って、犯罪者のデリンジャーみたいな人間はどこにでも沢山いて、それほど面白くもないが、このパーヴィス捜査官は面白い。
優秀なるが故に自ら望まないことをやらされ、目的を達成しても、毀誉褒貶に悩まされたあげく、上司の嫉妬から疎まれ、ついには自殺してしまう複雑な男。
デリンジャーが狼なら、この男は、猟犬だね。走狗。
走狗については、有名な次の言葉がある。
「飛鳥尽きて良弓蔵められ、狡兎死して走狗煮らる(鳥がいなくなれば良い弓も捨てられ、兎が死ねば猟犬も煮て食われる)」(史記・越王勾践世家)
これは、臥薪嘗胆の越王勾践を助け、呉王夫差を破った范蠡(はんれい)の故事。
范蠡は、呉王夫差を滅ぼした後、好敵手だった呉の伍子胥(ごししょ)の二の舞になると悟り、亡命する。
そして、亡命先から、同僚だった大夫の文種に手紙を送り、君も越にいては危険だから早く勾践の元を去ったほうがよいとすすめる。
だが、種は従わず、范蠡の予言通り謀反の疑いを受け自死する。
その後の范蠡は商人として巨万の富を得て成功するが、決して政治の世界に戻ることはなかった。
走狗的人間としては、漢の三傑の韓信、九郎判官の源義経、東ローマ帝国の名将フラティウス・ベリサリウスなどが思い浮かぶ。
この映画のメルヴィン・パーヴィス捜査官もフーバーの走狗としてこき使われ、部下の信頼も得られず孤立する中で、ひたすらデリンジャーを追い詰めて行く。
走狗は決して報われることはない。
狼を殺すという目的を達成したら、用済みで、飼い主に食われてしまうのだ。
走狗は優秀であればあるほど、狼となって、飼い主に噛みつきかねないからだ。
狼は「お前は俺らと同類だ。いっしょにやろうぜ」と走狗を誘惑する。
だが、走狗はまだ狼にはなれない。
本質的に善だからだ。

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